不動産ファンドとしてはかなり高い融資調達比率のため、「安全性の高いインカム型」とは言い難い
ファンドの基本情報としては、1995年築と2013年築のアパートを投資対象として、想定利回り5.3%のインカム型ファンド、と、一見インカム型ファンドとして一般的な条件に見えるファンドなのですが、中身を見ていくとリスクとリターンのバランスが悪いと感じたため解説します。
今回のファンドはインカム型ですが、
物件購入価格の75%以上を融資で調達する(=LTV:Loan to Value75%以上)ファンドとなっています。
正直、LTV75%というのはかなり高い水準です。
上場市場で売買できる不動産ファンド「J-REIT」でも、レバレッジを効かせて投資家配当を高めるために融資を活用しますが、LTV水準は比較的リスクの低い住居系ファンドでも50%程度までのケースが一般的です。
J-REIT.jpに上場REITのLTV分布が掲載されていましたので、ご覧ください。
(出展)
J-REIT.jp マーケット概況より
投資家としては融資によるレバレッジで高いリターンが得られさえすれば良いわけではなく、融資によるリスクも踏まえ、リスクとリターンのバランスをとったファンドを求めますので、過度なレバレッジをかけたファンドは市場で流通していない、という状態です。
本ファンドは市役所が近いなどの環境条件が良いとはいえ、駅から徒歩14分のアパート投資としてはかなりとんがった資金調達構造のファンドと言えます。
融資によるレバレッジの負の側面
融資でレバレッジを効かせる狙いは、出資者(投資家、ファンド運営事業者)の期待利回りを高めることです。
では、なぜJ-REITではレバレッジを50%未満に抑えているのでしょう?
それは、
レバレッジを効かせることで期待リターンが大きくなる分、リスクも大きくなるためです。
金融機関は不動産に第一位の抵当権を設定しており、優先的に金利や元本の返済が必要になります。
投資家への元本償還は金融機関への利払いや元本返済より後になりますので、ファンドで損害が発生した場合の投資家の損失が大きくなります。
以下に
「損失5%」「損失10%」「損失20%」時の投資家の元本の棄損額を計算していますので、「負のレバレッジ」が出る構造をご確認下さい。
■5%の損失発生時の出資者への償還額
|
資金調達 |
清算時の償還金額 |
備考 |
融資 |
130,000,000 |
132,340,000 |
優先順位1位のため満額返済 |
優先出資 (投資家) |
36,000,000 |
29,160,000 |
元本を19%棄損 |
劣後出資 |
4,000,000 |
0 |
元本を全て棄損 |
合計 |
170,000,000 |
161,500,000 |
5%損失発生時 |
■10%の損失発生時の出資者への償還額
|
資金調達 |
清算時の償還金額 |
備考 |
融資 |
130,000,000 |
132,340,000 |
優先順位1位のため満額返済 |
優先出資 (投資家) |
36,000,000 |
20,660,000 |
元本を42%棄損 |
劣後出資 |
4,000,000 |
0 |
元本を全て棄損 |
合計 |
170,000,000 |
153,000,000 |
10%損失発生時 |
■20%の損失発生時の出資者への償還額
|
資金調達 |
清算時の償還金額 |
備考 |
融資 |
130,000,000 |
132,340,000 |
優先順位1位のため満額返済 |
優先出資 (投資家) |
36,000,000 |
3,660,000 |
元本を89%棄損 |
劣後出資 |
4,000,000 |
0 |
元本を全て棄損 |
合計 |
170,000,000 |
136,000,000 |
20%損失発生時 |
では、ここまでレバレッジを効かせて、投資家への配当性向はどの程度高まっているか、チェックしてみましょう。
収支検証を踏まえたファンドの評価
今回の対象物件では、税金や修繕費などの情報がなかったため、賃料収入の20%を経費と仮置きして収支シミュレーションを実施してみます。
もともとの物件の表面利回りが5.4%(マスターリース適用後)で、投資家への配当水準が5.2%ということで、やはり、融資により効かせたレバレッジで投資家に配当を上積みする分より、事業者の取り分の拡大幅が大きいという試算結果になりました。
もちろん、詳細なシミュレーションではないため差分は生じると思いますが、LTV75%で効かせたレバレッジ分を投資家配当にまわす比率より、運営事業者の取り分の方が高めになっているファンド、というのが管理人の評価としました。
■対象物件の募集賃料情報
融資 |
130,000,000 |
Loan to Value 76.5% |
優先出資 |
36,000,000 |
|
劣後出資 |
4,000,000 |
総資産の2.35% |
合計 |
170,000,000 |
|
■対象物件の収益力想定
購入額 |
170,000,000 |
年間賃料 |
9,104,436 |
表面利回り |
5.4% |
■ファンド収支(想定)
賃料収入 |
9,104,436 |
|
支払金利 |
2,340,000 |
金利1.8% |
投資家配当 |
1,908,000 |
配当利回り5.2% |
諸経費(想定) |
1,820,887 |
賃料収入の20%と大胆に想定 |
残額:事業者取り分 |
3,035,548 |
出資金に対する利回り70%超? |
なお、最後に若干だけフォローを。
金融機関が高めの掛目(LTV)で、かつ1.9%程度の金利で融資をしてくれるということは、対象不動産の価値は金融機関の査定でもそれなりの評価が得られたということです。
対象不動産の運営で20%の損失が生じるリスク自体が高いとは言えませんので、投資家が大きな損失を負うのは災害の発生や想定外の経済情勢や周辺環境の変化、運営事業者の倒産など限定的なケースではあるとみてよいでしょう。
投資判断は人それぞれに異なりますので、想定利回り水準と劣後出資比率、融資によるレバレッジリスクを踏まえてリスクとリターンのバランスに納得された投資家が投資された方は投資をご検討下さい。
・2棟(1棟は2013年築、1棟は1995年築)の鉄骨造と木造アパート/JR草津線石部駅から徒歩15分と、立地は良好とまでは言えない
・スーパー徒歩6分など住環境は悪くなく、満室稼働が継続とのこと
・融資併用型のため、総事業費1.73億に対する劣後出資比率は2.35%とかなり低い水準
LTV(LoanToValue)75%水準のレバレッジをかけたファンドであることを考えると、利回りが十分とは言い難い