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みんなで大家さんの行政処分と不特法クラファンへの影響、投資家の責任について

【2024年6月21日 1:00 PM】
2024年6月17日の「東京都住宅政策本部民間住宅部不動産業課」の報道発表において、「みんなで大家さん」の投資商品の媒介・代理を行う「みんなで大家さん販売株式会社」に対する行政処分を実施したとの内容が公開されました。
また、2024年6月17日の大阪府の「都市整備部 住宅建築局建築指導室建築振興課 宅建業指導グループ」の報道発表でも同日で、「みんなで大家さん」サイトを通じてファンド運営を行う「都市綜研インベストファンド株式会社」に対して行政処分を実施したとの内容が公開されました。
両社はそれぞれ、Webサイトでファンドの出資募集(契約の媒介・代理)を行う不特法2号事業者、実際に投資家の資金を預かりファンド運営をする不特法1号事業者という関係で、ファンド運営者にも投資家を募集する事業者にも同時に処分が実施されたという状態です。
東京と大阪の行政が連携して(国土交通省も関与して)対応にあたったためか、両者に対する指導の根拠や指示は基本的には同様の趣旨となっています。

その概要を紹介するとともに、投資家の立場で何ができるか、関係する法律の定めを確認してみます。
また、他の不動産クラウドファンディングサービスへの影響や行政の役割と限界、投資家の責任について管理人が感じたことをお伝えします。

※2024.6.19 大阪府の報道発表に関する情報(都市綜研インベストファンド株式会社への処分・指示)を追記

※2024.6.20追記:「執行停止の申立て」を受けた「行停止処分の効力の停止」について(東京地裁)
本処分についてはみんなで大家さん販売株式会社より「執行停止の申立て」が実施され、2024年6月20日に東京地方裁判所が業務停止処分の効力の停止を決定しています。
東京地方裁判所の決定内容概要は以下の通り。

■決定事項
1.業務停止処分の効力は、本件事案の第一審判決の言渡後から7日が経過する日まで停止する
2.申立人のその余の申立てを却下する
3.申立費用は相手方の負担とする

第一審判決が出るまで結論が明確にはならないため、今後の動向をウォッチする必要がありそうです。

決定のその他骨子は本記事の最後に記載します。

決定のその他骨子に記載されていますが、以下のような数字を見ると、本件が世の中に与えるインパクトの大きさを再認識しますね。
・成田PJの資金調達規模が1900億円を超えていること
・処分実施後の17日から18日の間の投資家の解約申入れが28億円以上であること

また、「投資家が土地開発型特有のリスクを一定程度許容していること」が業務停止処分を停止した背景として指摘されていることについても、開発型/キャピタル型投資を実施する際にしっかり再認識しておかなければいけませんね。

※2024.6.26追記:「執行停止の申立て」を受けた「行停止処分の効力の停止」について(大阪地裁)
都市綜研インベストファンドからも「執行停止の申入れ」が実施され、2024年6月25日付け大阪地方裁判所が業務停止処分の効力の停止を決定しています。
決定内容は東京地方裁判所の決定とほぼ同等となっており、一審判決の言い渡しから7日が経過する日まで停止となっています。

関連記事:投資家とのトラブルや信用不安発生時に、サービス全体に影響する(運営がやばくなる)不動産クラファンサービスの見分け方

みんなで大家さん販売に対する行政処分内容とは?

行政処分内容は、みんなで大家さん販売の不特法許可を所掌する「東京都住宅政策本部民間住宅部不動産業課」より報道発表資料が公開されていますので、誰でも確認が可能となっています。

<報道発表資料:東京>不動産特定共同事業者に対する行政処分
<報道発表資料:東京>別紙(PDF)
<報道発表資料:大阪>不動産特定共同事業者に対する行政処分
<報道発表資料:大阪>別紙 処分内容及び処分理由(PDF)

一般の方には若干内容が難解かもしれませんので、本記事で概要をまず整理してみます。

みんなで大家さん販売にはどのような処分が下された?

みんなで大家さん販売株式会社に対して、「不動産特定共同事業に係る業務の一部停止30日間及び指示」が出されました。
業務の一時停止はそれなりに重たい処分ですが、合わせて実施された「指示」内容に基づく対応が投資家に関わる内容となりますので、後述します。

みんなで大家さん販売は、何が問題とされた?

報道発表資料別紙から概要を抜粋すると、行政指導を受ける原因となった事項は以下の通りです。

1.投資商品の媒介・代理(販売)時の情報開示(書面交付)及び、契約変更時の不適切な手続き
・本来必要な開発許可が下りていない対象不動産を扱うが、開発許可済みと交付書面に記載(事実と異なる告知)した
・その是正のために土地の交換処理を行った際、本来投資家から契約変更の同意を得る必要があるにも関わらず、事業参加者(投資家)から申出がない場合、契約に同意したものとみなすこととした(本来は個々に変更の同意を取得する必要が有るが、取得していなかった

2.成田PJの計画見直しが事業に大きく影響を及ぼす重要事項であるにも関わらず、投資家への開示、説明が不十分だった
・事業プランの変更が土地の資産性に大きく影響を及ぼす可能性があると認識しているにも関わらず、X社グループ「共生日本ゲートウェイ成田プロジェクトについての近況報告」を送付して説明するにとどまった
・土地の資産性に影響を及ぼし、事業参加者等が投資判断を行う上で重要となる以下のような事項の説明がなかった
 -事業プラン変更後の対象不動産の資産価値
 -将来的な収益性や実現可能性への影響

3.成田PJに関する投資ファンドの契約成立前項書面において、「宅地造成工事完了時における形状・構造等」の記載が不十分
特に「対象不動産の構造」についての記載は明らかに不足(他にも不十分である点があるとの意)

みんなで大家さん販売に対する処分において、具体的にどのような指示が出された?

具体的な指示は別紙にて公開されていますが、ポイントを抜粋すると、以下のような指示内容となっています。

不動産特定共同Y社が実施している「共生日本ゲートウェイ成田プロジェクト」(以下「成田PJ」)に関して、
※Y社=ファンドを実際に運営する都市綜研インベストファンド株式会社(=匿名組合契約における投資家への配当や元本償還責任等に関する責任を負う営業者)

(1)計画の変更時に適切な情報開示や意思確認がされなかった投資家に関する指示事項
①変更又は解約についての意思を明確に確認できていない事業参加者に対し、契約の変更に応ずる意思があるかを速やかにかつ明確に確認すること
確認した投資家の意思をY社に報告すること

(2)X社による成田PJの計画見直し公表後にの事業参加者(投資家)に対する措置に関する指示事項
※X社=「共生日本ゲートウェイ成田プロジェクト」を進めている共生バンク株式会社
成田PJの計画見直しが投資商品に与えた影響、リスクや、対象不動産の将来の収益性や資産価値(例えば鑑定評価額など)、実現可能性への影響等、投資家の投資判断において重要となる事項について投資家が理解できるように説明すること
②成田PJの宅地造成工事完了時の形状・構造等の必要事項を明示した上で説明すること
③今回の処分理由及び処分内容を投資間い説明すること

(3)投資家から成田商品の解約申出があった場合には、Y社への取次を誠実かつ適切に行うなど、投資家保護に万全を期すこと

(4)本件処分理由の再発防止のために具体的な対策を検討し、速やかに実行するとともに周知徹底すること

(5)法令遵守を社内で徹底するとともに、社内研修・教育等を実施、継続すること

(6)不特法事業の遂行に必要な業務管理体制を整備すること

(7)投資家からの成田商品の解約申し込み状況、対応状況を当面の間日次で報告すること

全体として、みんなで大家さん販売株式会社はあくまでファンド運営者ではなく、出資契約を媒介・代理する立場であるため、適切な情報開示を行う他、投資家の意思を確認し、Y社に取次までの責任になります。
(当サイト掲載サービスでいえば、COZUCHIでサイトを運営するLAETOLI株式会社は媒介・代理者であるため、こういった場合にはファンドを主に運営する株式会社TRIADに取次ぐまでの責任ということが本件でも確認できます。)

この点について、ファンド運営事業者である「都市綜研インベストファンド株式会社」に対しては「成田商品の解約の申出に対し誠実かつ適切に対応するなど、事業参加者の保護に万全を期すこと。」との指示が出ており、「誠実かつ適切」な対応を求めていますが、対処方法に関する具体的な指示までは含まれていません
これは投資家とY社との匿名組合契約に基づく対応自体は民事(裁判等)に委ねるということだと考えでしょう。
行政としては法律に基づく適切な情報開示や、適切な(適合性のある:投資家の属性を踏まえて理解できるように)説明などの義務を順守するよう事業者の監督を行いますが、最終的な投資判断自体は投資家の責任であり、民事の範疇で協議すべき問題なのでしょうね。(行政としてはその対応が悪ければ許可取り消しなどのより厳しい処分を行うことはあるでしょうが、投資家の救済は民事の世界。)

投資家の立場では、投資先となるファンド運営事業者が信頼できる企業で、しっかりした財務基盤を持っているかを投資家は確認することが重要ですね。
当サイトではリスク資産である不動産の保有規模と自己資本の比率や、不動産の売買が円滑に行われているか、など、決算資料から見える範囲のチェックを最低限行い、解説していますので、投資の際の参考としてください。

みんなで大家さん販売を通じてファンドに出資した投資家への影響は?

本件は行政としての指示は出たものの、この指示を受けた対応は、ファンド運営者と投資家間で行われることになります。
法律の厳密な解釈や訴訟検討などは弁護士などプロと相談していただくことになりますが、ここでは関係する法律や条項、論点となりそうな点などを参考としてご紹介します。

論点①:消費者契約法に基づく「契約の取り消し」が可能か?

消費者契約法では、一般消費者と事業者の契約において、重要事項について事実と異なることを告知した場合等一定の条件の場合に、「契約の取消」が行えることを定めています。
契約解除ではなく、そもそも契約自体の取消ができるのであれば、投資家は出資金の返還を要求することが可能になるはずですね。

関係する消費者契約法の第四条を抜粋します。
第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
(参考)消費者契約法

なお、消費者契約法はエクイティ出資などには適用されないとされるものの、一般的には不動産特定共同事業法に基づく匿名組合契約は消費者契約法が適用される可能性がありそうです。
例えば国土交通省が不特法事業者の監督に関する関して定めた書面にも消費者契約法への抵触の可能性について触れられています。
(参考)国土交通省 不動産特定共同事業の監督に当たっての留意事項について

論点②:金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律に基づく「損害賠償」が可能か?

金融サービス法と略されることもある法律ですが、金融商品の販売業者の義務や責任などを定める法律です。

この法律では以下のようなことが定められており、「金融商品販売業者が顧客に重要事項を説明しなかったときは、損害賠償責任を負うものとし、元本欠損額をその損害額と推定する」こととなっているため、元本を棄損した場合には、投資家にとっては損害の立証が容易となる他、販売業者にも責任を問える可能性があります。

(1)金融商品販売業者の説明義務の明確化
(2)説明義務違反に対する損害賠償責任

「金融商品」の定義は同法の第3条に定められていますが、不特法に基づく不動産クラウドファンディング(匿名出資契約、任意組合契約いずれも)は対象と読めそうです。

論点③:では、実際に投資資金は返ってくるのか?

この点は弁護士など専門家でないとなんとも言えませんので、ここでは仮定の話として、裁判で投資家への資金返還が命じられた場合のことを記載します。

ファンド運営事業者が倒産しない場合

不動産クラウドファンディングでは、投資家はファンドを運営する1号事業者と締結します。
論点①で記載した契約の取消を行え場合、返金義務があるのはファンド運営事業者になるため、運営事業者に財務余力があり、返金要請のあった投資家の出資金分だけの現金を確保できるなら、その現金を投資家に返金して対応は無事完了ですね。
では、ファンド運営事業者に返金余力がない場合には、どうなるでしょうか?

ファンド運営事業者に金がなければ払えないですが、その場合に考えられる対処としてはまず、対象不動産を売却して現金化すること(ファンド全体の早期清算)です。

インカム型のファンドなど、既に収益を生んでいるファンドの場合は、不動産の収益力に応じた額での売却が期待できます。
不動産の世界では「売り急ぐ」ことで価格が下がる可能性はありますが、インカム型の場合は不動産の仕入れ価格が妥当であれば、一定の資金返還の期待が持てるのではないでしょうか。

では、成田案件のように「現在は価値の低い土地などで開発行為を行う」ような開発型/キャピタルゲイン型では、どうなるでしょうか? ファンドとしては土地を仕入れて工事費用などを負担するものの、不動産が完成して、かつ、実際の収益力を確立できなければ投資回収が困難な可能性があります。
現金化をめざしても、投資した資金のごく一部しか回収できないようなリスクも発生してしまうでしょう。

これがインカム型と開発型/キャピタルゲイン型の大きな違いと考える必要はありそうです。

ファンド運営事業者が倒産してしまう場合

不動産クラウドファンディングの多くはファンド運営事業者(匿名組合契約の営業者)が自身の資産として不動産を運用しますが、倒産隔離は実現されていません。
運営企業が倒産した場合、投資家はファンドで保有する不動産に対する別除権(優先的に債権を回収する権利)を持ちませんので、倒産企業の清算がされ、債権者に分配可能な資産が残った場合に分配を受けることができます。
債権回収までに長い期間がかかることや、投資した金額が大きく棄損する可能性もありますので、運営事業者の倒産時には非常に大きな影響を受けることになりますので、ファンド運営事業者の財務基盤のチェックは非常に重要ですね。

ファンドへの出資契約を媒介・代理するWebサイト運営事業者(2号事業者)に賠償責任を問えるか?

ファンドに対する出資を媒介・代理する事業者に損害賠償を請求することは可能なのでしょうか?

正直前例がないためなんとも言えないのですが、媒介・代理事業者は不特法で定める「適合性のある説明」責任や、1号事業者(ファンド運営者)に関する審査責任をもっています。
そのために2号事業者は一定の資格要件を満たす「業務管理者」を配置して審査を行い、審査結果を開示する義務を負っています。
審査では「善良なる管理者としての注意義務」の履行が求めらると考えられますが、1号事業者から悪意を持って騙された場合などは免責される可能性もあります。
一方で、不動産特定共同事業者というプロの事業者であれば当然見抜けるようなことを見過ごしていた場合には善管義務違反を問える可能性もゼロではない気がしますので、このあたりは法律の専門家の力も借りて協議していく領域になるのではないでしょうか。

管理人個人の感覚としては、今回のように開発許可を得ていない点が事実と異なるケースでは、審査時の書類チェックで見抜ける可能性も感じますので、そのあたりも論点になるかもしれませんね。
(管理人が持っている不動産証券化協会認定マスター資格は「業務管理者」に求められる資格要件を満たしており、こういったトラブル事例を見ると責任の重たさを改めて感じます。)

他の不動産クラウドファンディングサービスへの影響と、投資家が注意すべき点とは?

当サイトは管理人の判断で「みんなで大家さん」のファンドは掲載していなかったのですが、他サービスには、どんな影響があるのか検討してみます。

他の不動産クラウドファンディングサービスへの影響

結論としては、現時点では他のサービスに与える影響は大きくはないでしょう。

第三者鑑定評価の取得や開示義務はこれまでなかったのですが、もしこれが義務となれば、ファンドにおける不動産の売買価格を検証することが可能となることも期待しましたが、今回の指示でも鑑定評価はあくまで「例えば」との記載で、義務とはなっていません。
不特法は小規模な地方不動産の再生なども狙った法律のため、50万円程度の費用がかかる鑑定評価の取得を義務づけるのは難しい事情があるのかもしれません。

とはいえ、今回の指示では「リスクや、対象不動産の将来の収益性や資産価値(例えば鑑定評価額など)、実現可能性への影響等、投資家の投資判断において重要となる事項について投資家が理解できるように説明する」ことを指示されており、この点が不透明なファンドに対して行政が課題意識を持っている可能性はありそうで、今後の改善が期待できるかもしれません。

鑑定評価での売買が導入されると、特にフェーズ1からフェーズ2へのそのままのリファイナンス(ファンド間でそのまま不動産を売買する)する場合の価格の不透明さという現在の不特法の大きな問題のひとつが解消されます。
現在の運用では、フェーズ間売買は事業者の言い値となっており、当初約束した利回りが出るような価格で売買されるのですが、その価格の妥当性検証や情報開示が不十分なケースがほとんどです。
これがリスクにつながるのは、対象不動産が本当にそれだけの価値を持っているのか、実際に不動産の売却が完了し、利益または損失が確定するまでは誰にも検証できないため、損失を隠して先送りすることや、最悪不動産の価値以上の資金を投資家から集められてしまうためです。

REITやプロ向けファンドの世界ではファンド間売買では第三者鑑定評価の取得や、鑑定評価での売買(または●%以内での売買)が義務付けられるているのと比べると、不動産特定共同事業法の1号事業における制約は非常に緩いものとなっています。
管理人がフェーズ間で不動産を売買するファンドに慎重な見方をしているのは、こういった問題があるからです。

鑑定評価が不要という不特法のルールは、本件を契機に議論が進む可能性も感じますので、例えば一定額以上のファンドにおける鑑定評価額での不動産売買を義務化するなど、投資家保護の立場での見直しが検討されることを期待したいところです。

ただし、最悪の想定として、この問題によりみんなで大家さんに対して投資家の解約請求が殺到し、その解約や返金が円滑に行かず、投資家への損害が現実に生じるような状況になった場合には、他の不動産クラウドファンディングサービスにも影響が出る可能性も感じます。
シンプルな話として、投資家が不動産クラウドファンディング全体に不信感を感じ、これまでのような資金調達ができなくなるという可能性は否定できませんね。
今後新聞だけではなく、週刊誌やWeb、TVなどのメディアでもこの案件の動向は報道されることは想定されますので、メディアの方向性によっては、一気に「不動産クラウドファンディング=胡散臭い」といったイメージが広がることも考えられます。

そうなった場合の影響度合いはサービスごとに異なりそうですので、この点については別記事で考察しました。

関連記事:投資家とのトラブルや信用不安発生時に、サービス全体に影響する(運営がやばくなる)不動産クラファンサービスの見分け方

投資家の注意すべき点とは?

今回の指示においては、行政からは「実現可能性への影響」を説明するように求めています。
が、逆にいうと、行政の立場では「実現可能性がない、といった断定はよほどのことがない限り難しい」という状況も理解しないといけないでしょう。

つまり、行政は事業者がしっかり法律に定める義務を果たしているかを監督することはできますが、事業の実現性やリスクについては、適切な情報開示を受けた投資家自身が判断するしかありません
事業者の倒産リスクについても事業者は投資家に開示していますので、このリスクについても投資家の自己責任となります。

限られた開示情報から投資先判断を行う必要がある投資家の立場では、最低限重要事項説明書などの開示書類記載の事業内容やリスク等を自分なりに納得できるまで確認し、不安を感じる場合には投資を見送る、といった自衛策を取ることも重要ですね。
また、インカム型ファンドと開発型/キャピタルゲイン型ファンドでは、通常運営時もリスクに違いがありますが、こういった事案の際のリスクの大きさが全く違いますので、特に開発型/キャピタルゲイン型ファンドへの投資時は運営事業者が信用できるか、必要な開発ノウハウを持っているかをしっかり納得いくまで確認する方が良いでしょう。

若干余談ですが、例えば会計のプロである会計監査法人においても、「実現可能性がない、といった断定」を行うことは簡単ではありません。
不動産会社の決算において、保有不動産は低価法に基づき、減損が確認されればその期に減損損失を計上する(簿価を下げる)必要があります。
が、不動産会社が具体的な事業計画を策定し、将来の事業性があるという蓋然性、可能性を主張する材料を用意してきた場合に、それを全否定することは容易ではありません。(実際、難易度は高くとも可能性自体はあるケースも多いでしょう。)
本件でも実際、みんなで大家さんの公式ページにおいて、「本処分により今後のゲートウェイ成田プロジェクトの事業計画等に与える影響はないと考えております。」という主張が掲載されていますが、詳細な情報開示を受けて監査を行う会計監査法人や行政でも断定できないことを、外部の一般投資家が断定することは不可能と言って良いでしょう。

(参考)みんなで大家さん公式ページ お知らせ掲載:行政処分に関するお知らせ

大規模開発は非常に夢がふくらむ事業ですが、事業が軌道にのらなければ収益は実現できませんので、リスクがある事業であることを理解して投資判断を行っていきたいですね。
なお、管理人は「みんなで大家さん」については特定事業への依存度が極めて高く、1プロジェクトでの損失が運営企業の財務に甚大な影響を及ぼすこと、また、その将来の事業価値が現在価値との乖離が大きく、事業が成功しなかった場合のリスクが高いと判断しており、今後も掲載の予定はありません。

まとめ

不動産クラウドファンディングサービスは、不動産特定共同事業法という厳格な法律の元運用されており、投資家にとってはメリットも大きい仕組みです。
不動産クラウドファンディングでは投資家の資金使途が対象不動産の運営や開発に限定されており、優先劣後構造で投資家を守る仕組みを持つファンドも多いため、安全性の高い投資手段にできます。
そのためには投資先サービス運営事業者の財務基盤や事業ノウハウを確認し、ファンドの商品設計や固有リスクの確認評価を行った上で、複数のサービスに分散投資すれば、最悪の場合の損失時のリスクを抑制しつつ、堅実な利回り投資を継続することも可能です。

が、この記事でも触れた通り、第三者鑑定評価の取得義務がないため、市場価格の検証が困難な不動産に対する投資についてはファンドにおける不動産仕入れ価格の妥当性検証が困難です。
特に現在の資産価値と将来の資産価値が大きく異なるような大規模開発事業や、フェーズ1⇒フェーズ2で単純にリファイナンスするようなファンド間売買については慎重な投資判断が必要です。

今回処分を受けた「みんなで大家さん」は、当サイトでは扱っていないものの、成田案件だけでも1,900億円を超える資金調達を成功させている、不動産クラウドファンディング業界の超大手の一角となっていました。
もちろん現時点ではデフォルトや倒産が起きたわけではないのですが、「人気」や「実績」だけでサービスを選ぶことの危険性を認識された方も多いのではないでしょうか。

投資先ファンドや運営企業を調査するにはかなりの労力がかかりますが、当サイトではサービス運営事業者の財務の健全性やファンドの安全性設計などについての情報を掲載していきますので、参考としていただければ幸いです。
鈴木 万里夫(仮)
株式投資歴20年以上を経た後、株式・投資信託との分散投資先として不動産クラウドファンディング投資をスタート。
不動産クラウドファンディング投資実績10ファンド / 1,000万円以上。今後もコンスタントに年間10ファンド程度に分散投資を継続予定。
投資検討のために自身が欲しい情報を集約できる投資サポートサイトとしてInvestor’s EYEを企画し、現在管理人として運営中。
【保有資格】 不動産証券化協会認定マスター / 宅地建物取引士

東京地裁決定(2024年6月20日:業務停止の処分の効力停止)について

2024年6月20日に公開された東京地裁の決定に関して、どのような考えにより決定したかが記載されていますので、概要を補足します。

出資総額が1,900億円という巨額の再開発プロジェクトですが、投資家は「土地開発型特有のリスク」を一定程度理解しているはず、という指摘もあります。
改めて投資は自己責任であることを理解し、しっかり投資対象の不動産ビジネスの中身を確認することが重要ですね。

また、本件の業務停止処分は裁判での結論をもって改めて判断されることになりますので、裁判の結論も引き続きウォッチしていきたいと思います。

■東京地方裁判所の判断

1.「重大な損害を避けるために緊急の必要がある」か否かについて
以下の通り事実確認や想定をした結論として、業務停止期間である30日間の機会損失にとどまらず、申立人の営業活動に著しい支障が出ることが一応認められる

そのため、業務停止が6月21日に差し迫っていることも考慮すれば、「重大な損害を避けるために緊急の必要がある」と言える

ただし、本案判決の確定までの停止を求めている点については、第一審判決の結論を見た上で改めて効力停止の各要件を判断するのが適当と思料されることから、第一審判決の言渡日から7日が経過する日まで停止することとする

(主な考え方)
・業務停止処分を受けた場合、業務停止を受けたというその外形的事実のみで信用をが大きく低下するのが通常である
・後に業務停止処分が取り消されたとしても同様の規模で業務を継続することが困難になることが伺われる
・損害の性質上、原状回復が困難であって、事後的な金銭賠償が実効性を有するとは言い難い
・6月17日の午後5時から18日の午後5時までの間だけで解約申し入れが28億円以上にのぼることから、申立人が説明義務違反に基づく責任を追及される可能性があること

2.「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」に当たるか否かについて
以下の状況を化が見ると、成田商品の募集額が1900億円を超える大規模なものであることを考慮してもなお、本件業務停止処分の処分理由にいう、「本件指示処分に重ねて本件業務停止処分をしなければ止めることができず、投資家の利益保護という公共福祉が害される具体的なおそれがある」ことについて、相手方(東京都)から、疎明が行われているとは言い難いと言わざるを得ない

したがって、業務停止処分の効力を停止することにより、投資家の利益保護という公共の福祉が害される具体的なおそがあるとまでは認めがたい

(主な考え方)
・成田商品について、利益分配金の支払いが停止し又は継続的に遅延しているとの事情はうかがわれず、本件業務停止処分の処分理由や相手方(東京都)の主張においても、客観的な状況に照らして成田商品が破綻必至のものであるなどの指摘はされていない
・そもそも成田商品は元本が保証されていないことや、「土地開発型特有のリスク」があることは重要事項説明書に記載されており、事業参加者は開発未了の状態にあることを知りながら出資を行っているため、事業の実現可能性に関するリスクを一定程度許容していると認められる
・申立人は令和6年5月9日にマスタープランを公開しており、事業計画についても具体化された内容が示されており、事業譲許の説明は一定程度改善されていたと評価することができる
・申立人が計画変更による影響を殊更軽微なものに見せかけようとしたなどの事情も伺われない

3.「本案について理由がないとみえるとき(行訴法25条4項)」に当たるか

前記1のとおり、申立人の営業活動に著しい支障が生じて、従来な損を受けることが一応認められる一方、前記2のとおり、指示に加えて業務停止処分をしなければ投資家の利益保護という公共の福祉が害される具体的なおそれがあるとの疎明がされているとは言い難いことに加えて、申立人の主張及び疎明を合わせて勘案すると、本案の心理を経るまでもなく本件業務停止処分が適法であるとまでは即断し難い

したがって、「本案について理由がないとみえる」に該当するとは言えない

※4 行訴法25条4項 原文抜粋
執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない。
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