「K-FUND」とは?
2025年10月にサービス開始した不動産クラウドファンディングサービス(※)です。
2025年の不動産クラファン市場では償還遅延や予定利回りを下回るケース、事業者の倒産などがあり、不動産クラファン業界にとっては、強い逆風が吹きました。
老舗の不動産クラファン事業者が資金調達に苦戦する中、配当利回り10%を超えるハイリターン型サービスとして登場したことで、不動産クラファン愛好家からも、同業者からも注目を集めているのではないか、と思います。
ただ、このタイミングでサービス開始しただけあって、
サービス運営事業者の本業とのシナジーが非常に大きいサービスとなっています。
サービスを運営する
株式会社カワムラ建設の得意な事業は、空き家や老朽化アパートを買い取り、権利調整や更地解体などを行った上で、再開発用地として、デベロッパー等に再販する事業です。(いわゆる地上げ屋)
一旦空き家やアパートを買い取るためにはキャッシュが必要です。
空き家やアパートを担保に融資を引くこともできるケースがありますが、満額は引けませんので、手元キャッシュが足りないと、仕入れができません。
この
不足する資金をクラウドファンディングで調達することで、これまでよりも大型の案件にチャレンジしたり、より多くの案件を並行して推進することができます。
想定利回り10%程度の高いリターンのファンドが提供されるようで、投資家にとっては、事業者の得意事業に投資できて利回りも高いというメリットがあり、うまくガバナンスが効けば、投資家と事業者がWin-Winになれる可能性を占めたクラファン事業モデルと言えると思います。
ただし、課題も有ります。
このような業態は、決して珍しいものでもありません。
不動産会社はそもそも、自身の手元キャッシュで足りない部分を、不動産を担保にすることで、レバレッジをかけて事業を行っています。その中でも、力のある会社は、不動産クラファンに頼らずに利益を上げて純資産を積み増し、事業規模拡大を成し遂げている企業も存在します。
一方、株式会社カワムラ建設は、「K-FUND」という新たな資金調達手段を得ることで、そのレバレッジを大きく高める可能性を秘めています。
不動産好況期には成長を加速させるプラスの効果が得られますが、仮に不動産市況が悪化する局面になれば、損失にも大きなレバレッジがかかる懸念はあります。
もちろん、投資家出資分の損失については投資家が負担しますが、事業者は、劣後出資分に加えて、対象不動産を売却するまでの無限責任を負います。
レバレッジが十分かかった状態で
リーマン・ショックのような事象が起きれば、事業者も投資家も、大きな痛みを被る可能性があります。
前述のとおり、地上げ/買取再販型事業者は多数存在するのですが、通常の事業者の場合は、手元資金の範囲、また、銀行融資についても、銀行という第三者が、融資の上限規模を設定することで、レバレッジには一定の制約があります。
不動産クラファンで資金調達が順調に進む場合、レバレッジのコントロールは、運営事業者と投資家の投資判断に委ねられます。
K-FUNDを始める以上、今後、一定規模までレバレッジが拡大し、自己資本比率が低下していくことは想定する必要がありますので、
そういったリスクも織り込んで投資判断が必要な、ハイリスクハイリターン型ファンドとみるのが良いのではないでしょうか。
※不動産クラウドファンディングサービスは、不動産特定共同事業法に基づき提供される不動産投資から得られる利益を原資に配当、元本償還を行う投資商品です。
不動産クラウドファンディングサービス共通の特徴については記事後半で解説します。
「K-FUND」他サービスと比較してみる
まずは、定量的なデータから、他の不動産クラウドファンディングサービスと比較して、サービスの特長や傾向をチェックしてみましょう。
2025年10月時点では、サービス開始直後のため、ファンド組成頻度などは見通せませんが、利回りはサービス平均と比べて大幅に高い水準となっており、ハイリターン型ファンドの組成が期待できそうです。
一方で、ファンドが実施する事業は空き家や老朽化アパートを買い取り、権利調整や更地解体などを行った上で、再開発用地として売却するという形態であり、賃料を原資とするインカムゲイン型ファンドと比べると、リスクが高い事業と言えるでしょう。劣後出資比率も1号ファンドでは総事業費の10%を下回っており、事業内容も考慮すると、ハイリスク型ファンドに位置づけるのが良いかと思います。
K-FUND ファンド提供状況
| 項目
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直近6カ月
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累計
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全サービス平均
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| 利回り
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12.0%
|
12.0%
|
6.42%
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| 劣後出資比率
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9.4%
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9.4%
|
18.76%
|
| 組成件数
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1件
|
1件
|
–
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| 資金調達額
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1億円
|
1億円
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–
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| 運用終了額
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–
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0円
|
–
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※2025年10月時点。比較対象は当サイトが収集対象としている「管理人が投資対象候補としたい厳選39サービス」の平均値です。
「K-FUND」のサービスの魅力、特徴
「K-FUND」の特徴は冒頭触れましたが、サービスの魅力、特徴をまとめると、以下の通りです。
「K-FUND」とは
- 事業者の得意な事業(空き家や老朽化アパートの再生)でハイリターンがめざせる
- 事業者にとっても不動産クラファンが事業成長につながる、Win-Win型の事業モデル
- 事業参入により自己資本比率の低下も想定されるハイリスクハイリターン型
大きく成長する可能性も、ハイリスク特性が強く出てしまうリスクもいずれも持つサービスだと感じます。
不動産クラウドファンディング業界が大きく変化した2025年に登場した本サービスが、どういった展開を見せるのか、注目していきたいと思います。
「K-FUND」を運営する「株式会社カワムラ建設」とは?
不動産クラウドファンディングは、「面倒な不動産運用はファンド運営事業者にお任せ」する投資商品です。
投資先を選ぶ際には、ファンド運営事業者の不動産事業のノウハウや財務状況を確認することが非常に重要になります。
そこで、「K-FUND」を運営する「株式会社カワムラ建設」をチェックしてみましょう。
「株式会社カワムラ建設」の基本情報
株式会社カワムラ建設は、不動産クラファンで資金調達を行う都市開発事業(空き家やアパートを買い取り、事業用地として再販する事業)、バリューアップ事業(リノベーションなどで価値を拡大)、リゾート開発事業を行う不動産会社です。
これまでの売上高規模は決して大きくはない、小さな不動産会社ですが、これまでの得意事業を不動産クラウドファンディングで加速させることで、企業成長を狙える業態です。
不動産クラウドファンディングでは、COZUCHIのファンド運営を担うTRIADも分類としては地上げ(主に共有持分などの権利調整)を得意としており、ハイリスクな案件をしっかりさばいてきたことで企業成長を実現してきており、不動産クラファンとの相性が良い業態と言えるでしょう。
急成長が狙える分、レバレッジを高めれば相応にリスクも高まりますので、メリットもリスクもあることは留意してください。
「株式会社カワムラ建設」の決算情報チェック & 業界平均との比較
まず、当サイトに掲載している株式会社カワムラ建設の決算(2025.10時点)を見てみましょう。
企業の「稼ぐ力」があらわれる「PL」を見ると、
売上高総利益率が業界平均を上回っています。
ただし、業態からは、建物の建築コスト負担が無い、素地転売型のため、利益率が業界平均より高いというのは、特段の驚きはありません。
とはいえ、
地上げでは長期間の保有を強いられるケースもあり、高粗利案件と案件が長期化して利益率が悪化する案件も混在している可能性がありますが、毎年しっかりと売上を上げつつ利益率も確保していることから、この業態でのしっかりとした実績があると考えられるのではないかと思います。
懸念点は営業利益率と経常利益率の低下です。
特に、
直近の2025年6月期では販売管理費等(人件費や広告費が含まれます)が大幅に増加しており、営業利益率、経常利益率ともに業界平均を下回る状態となりました。
不動産クラウドファンディングの立上げ期には一定のマーケティングコスト投下など、先行投資がかさむ可能性もあり、
販売管理費がさらに増加すると、より高い売上高がないと利益が確保できない事業構造になります。(損益分岐点ライン売上高が上昇する)
次に、企業の「財務基盤」があらわれる「BS」を見ると、
純資産が4億円を超えており、自己資本比率も24.28%と当サイト掲載企業の平均を上回っています。
ただ、正直なところ、現時点でのK-FUNDサービス開始前のBS情報は、ほとんど参考になりません。
というのは、カワムラ建設が行ってきたような買取再販型事業では、基本的には事業者の自己資本及び融資調達が可能な上限額が、総資産(BS)及び事業規模の上限となります。
(その上限枠を拡大するためには、銀行以外の資金調達手段(商工ローンや金主からの個別調達など)を用いるケースはありますが、それでも上限があります)
ところが、不動産クラウドファンディングでの資金調達において、投資家は、事業者の既存事業規模を大きく超える出資に応じるケースが多く発生しています。
そのため、
運営事業者が事業の大幅な拡大を志向し、効果的なマーケティングを実施すれば、短期間で総資産規模が拡大し、自己資本比率の大幅な低下が起こりうることなります。
前述の通り、販売管理費が昨年度末時点で既に増加しており、不動産クラファンに関するコストも乗ってくる今期以降は、更に売上高を上げて行かないと、営業利益率、経常利益率の低下を招きますので、売上高を上げていくことは企業経営上も重要になってきますので、一定の規模拡大により利益をしっかり出していけるようになることは、事業者にとっても投資家にとっても重要です。
一方で、毎年の利益を積み上げ、純資産(利益剰余金)を積み上げていかないと、自己資本比率の低下が進みますので、1年後の決算数値には注目していく必要があるでしょう。
実際、不動産クラウドファンディング専業の事業者においては、自己資本比率が5%程度まで低下する事業者が多数(わかちあい、COZUCHI、TOMOTAQU、Victoryなど)存在しており、ヤマワケエステートに至っては、自己資本比率は1%を下回る水準となっています。
現時点での決算情報から見える財務の健全性は、1年後の財務の健全性を全く保証しませんので、現時点では参考程度にみておくべきかと思います。
なお、これは、K-FUNDだから生じる特性といった話ではなく、不動産クラウドファンディング専業事業者共通のことですので、現時点で、K-FUNDにおいて特別な懸念があるわけではありません。
とはいえ、
カワムラ建設の本業と不動産クラウドファンディングの相性が良いだけに、ファンドに適した案件の取得は比較的容易でしょうし、カワムラ建設が財務規律や投資家リスクの抑制をよほど重視しない限りは、総資産規模が増えていく可能性はありますので、
今後のファンド組成頻度や規模をウォッチいただければ、と思います。
株式会社カワムラ建設 決算情報(BS)
| 項目
|
2025年06月30日
|
2024年06月30日
|
2023年06月30日
|
全サービス平均
|
| 総資産
|
18億1,109万円
|
14億4,670万円
|
16億5,988万円
|
–
|
| 純資産
|
4億3,980万円
|
4億2,648万円
|
3億7,726万円
|
–
|
| 自己資本比率
|
24.28%
|
29.48%
|
22.73%
|
23.64%
|
運用中資産規模 AUM(※)
|
0円
|
–
|
–
|
–
|
| AUM÷純資産
|
0
|
–
|
–
|
10.19
|
| 現預金
|
–
|
–
|
–
|
–
|
| 現預金比率
|
–
|
–
|
–
|
12.11%
|
※直近1年間のファンドの募集額に運用期間(年換算)を乗じることで、現在運用中ファンドにおける投資家からの出資金規模を算出。(当サイト独自指標です)
株式会社カワムラ建設 決算情報(PL)
| 項目
|
2025年06月30日
|
2024年06月30日
|
2023年06月30日
|
全サービス平均
|
| 売上高
|
10億3,806万円
|
12億5,383万円
|
9億931万円
|
–
|
| 売上総利益
|
3億5,868万円
|
3億3,805万円
|
2億7,020万円
|
–
|
| 売上総利益率
|
34.55%
|
26.96%
|
29.71%
|
26.02%
|
| 営業利益
|
4,218万円
|
1億359万円
|
1億5,973万円
|
–
|
| 営業利益率
|
4.06%
|
8.26%
|
17.57%
|
6.84%
|
| 経常利益
|
2,314万円
|
8,098万円
|
1億4,200万円
|
–
|
| 経常利益率
|
2.23%
|
6.46%
|
15.62%
|
4.23%
|
※決算の見方については、別記事「
不動産クラウドファンディング事業者の決算チェックポイント」で解説していますので、興味を持った方はご欄下さい。
まとめ:「K-FUND」とは?
サービス開始当初から高い利回りで注目を集めるサービスですが、運営事業者の本業とのシナジーが大きく、本業のノウハウが生きる事業となっています。
一方で、本業の資金調達力を不動産クラファンサービス開始により補うことで事業規模が急拡大し、事業リスクの拡大や、自己資本比率の低下が生じる可能性もあります。
現時点では1年後の決算数値の予測ができない、という不確実性もあるサービスですので、高いリターン相応のリスクもある、ハイリスクハイリターン型ファンドという視点でチェックし、リスク受容可能な範囲での分散投資を心がけていただければ、と感じます。
最後に
ここまで「K-FUND」の魅力と留意点をご説明しましたが、本サービスがどこまでハイリスク型になっていくかは、正直、企業としてのガバナンスや考え方次第の面があり、一定のリスクはあるでしょう。
一方で、本業でノウハウを持ち事業に投資できて、想定利回り10%以上といったハイリターン型ファンドに投資できる機会は、不動産クラファンにおいてもそう多くはありません。
ハイリスクハイリターン型ファンドとして見れば、高い魅力もあるサービスではないでしょうか。
もちろんファンドが扱う不動産事業で損失が出る可能性もありますし、万が一の運営事業者の倒産リスクの可能性も踏まえ、分散投資が非常に重要になりますので、リスク受容ができる範囲で分散投資先として選定されるのは、いかがでしょうか?
なお、当サイトではリスク分散の観点で、複数のサービスに対する分散投資を強く推奨しており、投資先サービスやファンド探しに役立つ情報の収集、掲載に努めていますので、他サービスについても是非ご確認下さい。
「K-FUND」は不動産特定共同事業法に基づき提供される投資型クラウドファンディングサービス
「K-FUND」は、不動産特定共同事業法(以下、不特法)に基づき厳しい規制やルールのもとで提供される、投資型クラウドファンディングサービスです。
不動産クラウドファンディングとは、「不動産特定共同事業法(以下、不特法)」という法律に基づき、国土交通省・都道府県から許可または登録を認められた事業者のみが投資家に提供可能な投資商品であり、以下のようなメリット・強みを持つサービスです。
不動産クラウドファンディング投資のメリット・強み
- 株式のような値動きがなく、堅実な配当利回りが期待できる
- 出資金の使途は対象不動産運営に関するものに限定し、リスクを限定
- 優先劣後構造で、ファンドで損失が生じてもまず事業者が負担
- 契約書は行政の審査を経ており、不当に不利な心配がない
- 面倒な不動産運用はファンド運営事業者にお任せ
- ただし元本保証はないため、複数サービスへの分散投資は重要!
不動産特定共同事業法は厳しい投資家保護のためのルールを定めているため、サービスやファンド運営を行う事業者は全て、このルールに従って投資家保護に取り組んでいます。
(上記のうち、優先劣後構造については厳密には法律に定める義務ではないため、ヤマワケエステートなど一部該当しない事業者が存在します。)
「株式会社カワムラ建設」についても当然、サービス提供事業者・ファンド運営者ともに神奈川県の許可を取得しており、サービスやファンド運営についても行政の監督を受けています。
(株式会社カワムラ建設:不動産特定共同事業 神奈川県知事 第25号)
不動産クラウドファンディングに共通する特徴や制度については本サイトの
「不動産クラウドファンディングとは?」で解説していますので、ご確認ください。
鈴木 万里夫(仮)
株式投資歴20年以上を経た後、株式・投資信託との分散投資先として不動産クラウドファンディング投資をスタート。
不動産クラウドファンディング投資実績30ファンド / 3,000万円以上。今後もコンスタントに年間10ファンド程度に分散投資を継続予定。
投資検討のために自身が欲しい情報を集約できる投資サポートサイトとしてInvestor’s EYEを企画し、現在管理人として運営中。
【保有資格】 不動産証券化協会認定マスター / 宅地建物取引士