不動産クラウドファンディングを初めて知った時の印象として、「利回りが高い」「儲かりそう」という印象を持った方も多いと思いますが、同時に、「怪しい」「信用して良いかわからない」という印象を持った方も多いのではないでしょうか?
ファンドを運営する不動産会社は、ここまで高い配当利回りを投資家に支払いぐらいなら、銀行や知り合いの資産家などからお金を借りた方が得なんじゃないか、という疑問を感じる方もいるでしょう。
不動産クラウドファンディングサービスを不動産事業者が提供する理由はいくつかのパターンに分かれますが、お金を借りられるのにあえて損をしてまで、投資家に高い利回りを払っているサービスも存在します。
そんなうまい話には裏があるのでは?と思うかもしれませんが、意外に裏がないケースがありますので、パターンごとに不動産会社がなぜ高い利回りを提供するか、解説します。
「知ってもらうこと(認知/PR)」を目的にサービスを提供しているパターン
このパターンのサービスは、クラウドファンディング事業で儲けるわけではなく、広告宣伝費を払うつもりで事業をやれますので、投資家にとっては実は狙い目です。
このパターンの特徴は、以下のようなものがあげられます。
(1)ファンドの募集金額は大きくない
(2)ファンドの組成頻度はほどほど
(3)無理な広告はせず、募集が集まらなければ、自社で不足分を出資(劣後出資)してもよいくらいの考えで運用できる
(4)そのため、利回りも無理には高くないが、安全性の高い商品設計を行う
(5)完成済みの建物(マンション等)を運営するインカム型ファンド
理由としては、(1)(2)は同じ理由で、ファンドで投資家に配当を払うと本来得られる利益が減るので、目的である「知ってもらうこと」ができる程度の金額、頻度でよいのです。
(3)については事業者により差がありますが、どちらかというと、自社に興味を持った方に、自社が不動産テック領域の事業もやっている会社、というイメージをもってもらうなど、企業に興味をもってもらった際の信頼感や先進性をあげたい、といったケースがあります。
自社のマンションブランドのPRを狙う事業者の場合は、マンションブランドを知ってもらう手段の一つ、といった位置づけの場合もあります。
(4)(5)も共通の目的ですが、本業で稼ぐために不動産クラウドファンディングを利用しているのに、投資家に損失を与えてしまうと、本業に悪影響が出てしまいます。
それでは本末転倒ですから、投資家保護を重視するのは当然の考え方でしょう。
このパターンに該当すると管理人が考える事業者の代表パターンは以下で、本サイトの「安全性」ランキングスコアでも上位を占める3社(2024.5時点)となっています。
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T’s Funding
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GALA FUNDING
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Rimple
なお、管理人自身は経験はありませんが、自社の投資用不動産(区分マンション投資など)を勧奨するための会員(勧奨先)リストを集めるケースも考えられますが、これを避けたい場合は、会員登録時に個人情報の利用目的が説明されていますので確認しましょう。
銀行から借りられない部分の資金調達を行っているパターン
このパターンのサービスは、銀行がお金を貸してくれない部分を、一般投資家から資金調達します。
こう聞くと不安になると思いますので、まず先に、不動産会社が通常どのように不動産ビジネスを行っているか、少し解説します。
不動産ビジネスにおいて、「土地」「完成した建物」には抵当権を設定することで担保にとることができるため、銀行などの金融機関はその不動産を担保として融資をします。
そのため、融資のつく不動産については、資金力の弱い企業でも買いやすいため、多くの事業者間の競争を通じて価格が設定されます。
多くの不動産会社にとって、金融機関からの融資で事業規模を拡大し、効率よく事業を拡大していくことは非常に重要です。
ところが、融資がつかない、またはつきずらいケースがいくつかあります。
(1)共有持ち分など、権利関係が複雑で抵当権設定ができない不動産 : 抵当権が設定できないので担保が取れない
(2)建築中の建物など : 実績のある不動産会社でないと借りられない(金融機関によってはそもそも無理な場合も)
(3)査定価格が低くなる物件 : 金融機関は保守的に査定するため、融資はつくが不足額が大きくなる
(4)事業の見通しが立ちにくい物件 : 金融機関がリスクを査定しきれない物件には貸せません(得意不得意有り)
(5)遵法性に問題がある物件 : 違法となっている状況の解消が必要
(6)企業ごとの融資上限額を超えている : 企業規模等に応じて融資上限水準があります
(1)の「共有持ち分」とは、一つの不動産を複数のものが共有している状態のことで、抵当権の設定や再開発には共有者全員の承諾が必要になります。
共有状態を解消することで融資がつくようになり、売買が容易になりますが、ただ、先祖から相続した土地を子孫に引き継ぎたいと考える人もいれば、固定資産税などを考慮すれば、高値で売りたいと考える人もいたり、簡単には共有状態が解消できないケースもあります。
共有状態では土地の利活用には制約が多いため、買い手がつくにくくなりますし、そもそも銀行融資がつかないため、現金で買える資金力のある事業者しか買えない状態になります。
そういった不動産では価格競争が起きにくく、共有状態を解消した状態より安く買い取ることが可能です。
この買取資金を不動産クラウドファンディングで資金調達できれば、共有状態を解消することで、土地のポテンシャルを最大限活かした活用方法を前提とした価格で売却できますので、売却益を大きくできる可能性があります。
COZUCHIや
ヤマワケエステートなどでこのパターンのファンドを扱っていますが、不動産会社に権利調整ノウハウが必要で、どの事業者でも行えるというものではない、一定のリスクのあるパターンです。
一方で、COZUCHIの決算を見ると、他事業者と比べても高い利益率となっており、うまく権利調整ができれば、高い利益を上げられる可能性があります。
■COZUCHIにファンドを提供する株式会社TRIAD決算情報(PL)
項目
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2023年02月25日
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2022年02月25日
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2021年02月25日
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売上高
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127億1,510万円
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52億5,252万円
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38億5,360万円
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売上総利益
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35億4,156万円
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13億1,522万円
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8億5,323万円
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売上総利益率
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27.9%
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25.04%
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22.14%
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営業利益
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20億8,283万円
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4億8,323万円
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2億7,738万円
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営業利益率
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16.4%
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9.2%
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7.2%
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経常利益
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20億8,283万円
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4億8,323万円
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2億7,738万円
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経常利益率
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10%
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3.17%
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1.91%
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(2)のケースは、
DARWIN fundingなどで事例がありますが、土地の上に建てる建物の建築資金を不動産クラウドファンディングで調達するパターンです。
実績のある事業者(デベロッパー)には、建築資金についても融資がつくケースもありますが、可能な事業者が限定されます。
建築資金に融資がつかない事業者にとっては、不動産クラウドファンディングで資金調達することで不動産ビジネスの規模を拡大することが可能になります。投資家への配当利回りが高い分、銀行融資に比べて案件の利益率は低下しますが、企業の事業成長を加速させたいケースなどで有効な手段となります。
他の事業者でいえば、
ちょこっと不動産などは、戸建住宅の建築資金を不動産クラウドファンディングで調達していますが、これくらいの実績があれば、エリアによっては融資してくれる金融機関もあるため(地域差有り)、「知ってもらうこと(認知/PR)」という目的も混在しているケースかもしれません。
その他は似たパターンが多いですが、(5)のパターンの例としては、いわゆる「旧耐震(現在の耐震基準を満たさない、旧耐震基準の建物)」の収益物件を所有し、一定期間はインカム型ファンドとして賃料収入で配当を行い、建替えが可能な状況になれば、退去調整後に再開発を行う、再開発型ファンドとするといったパターンのファンドも存在しています。
旧耐震の物件は扱いが難しいですが、地方部では利回りの高い物件もあるため、高い利回りを求められる不動産クラウドファンディングでも扱いやすいのだと思います。
これらのパターンについては、事業者が得意な領域の運用・開発パターンのファンドは比較的安心感がありますが、全般に「ローリスク」とは言えませんので、ミドルリスク型のファンドであるという前提で投資判断を行うことをお勧めします。
この章ではどういったリスクが考えられるのかをお伝えしてきましたが、補足しますと、不動産クラウドファンディングでは幸いのところ、これまでに大きな損失が生じたケースは出ていません。
過去には不動産はバブルと呼ばれた時代がありましたが、現在の不動産価格は、不動産自体の収益力に基づき、実態のある価格となっており、不動産価格が一気に暴落するような危険性は低くなっていますので、出資金の投資対象不動産の情報が得られる不動産クラウドファンディングは、手堅い投資手段であると、管理人は考えています。
ここで知っていただきたいのは、「これまで損失が生じていないから安心」と、妄信してはいけない、ということです。
当サイトでは掲載しませんが、明らかにハイリスクの大規模・長期の開発案件の資金調達をクラウドファンディングで行っている事業者も存在しますので、近い将来、「損失を出すファンドが出てくる」と管理人は考えています。
かといって貯金に寝かしていてもインフレにより資産価値は減っていきますので、資産運用は重要。大切なことは、「損失が出るかもしれない」という大前提を理解の上で、慎重に検討の上で、必ず複数のサービス事業者に分散投資し、万が一の際のリスクを損失を限定することだと考えます。
他サービスとの競争対抗上、高い利回りでないと会員が集まらない
不動産業界の方と話しをすると、正直、今の不動産クラウドファンディングの利回り水準は、「高すぎる」という意見を多く聞きます。
投資家は、他サービスと比べて、「お得なファンド」に投資しますので、新サービスが高い利回りでスタートすると、競争対抗上、どうしても利回りを上げざるを得ません。
事業者の狙っていた以上に、高めの利回りが常態化しているのが現在の不動産クラウドファンディングサービスの実態です。
リスクについては正しく理解しつつ、投資家にとっては恵まれた現在の投資環境を資産形成に活用してはいかがでしょうか?
鈴木 万里夫(仮)
株式投資歴20年以上を経た後、株式・投資信託との分散投資先として不動産クラウドファンディング投資をスタート。
不動産クラウドファンディング投資実績10ファンド / 1,000万円以上。今後もコンスタントに年間10ファンド程度に分散投資を継続予定。
投資検討のために自身が欲しい情報を集約できる投資サポートサイトとしてInvestor’s EYEを企画し、現在管理人として運営中。
【保有資格】 不動産証券化協会認定マスター / 宅地建物取引士