不動産クラウドファンディングの配当、元本償還の仕組み
不動産特定共同事業法(不特法)に基づく不動産クラウドファンディングでは、ファンドで調達した資金を元に、必ず対象不動産の取得、または賃貸を行う必要があります。
ファンドでは、①対象不動産を運用することで得られる利益に加えて、②対象不動産を売却して得られる資金を元に、利益配当や元本償還を行います。
既に完成した賃貸マンションなどを取得し、運用するインカムゲイン型ファンドでは、マンション住人から得られる賃料が投資家への配当原資になるため(正確には、賃料から運用等コスト等を引いた利益分から配当される)、わかりやすい構造です。
ただし、元本の償還は月々の賃料からだけでは当然できませんので、ファンドの運用期間終了時には、対象不動産を売却して、その売却により得られた資金を元に投資家に元本償還を行います。
不動産の取得額と同額(手数料を考慮すればその分高く)で売却できれば、投資家への元本償還ができます。
一方で、それより安くしか売れない場合には、月々の利益から配当を除いた残利益があれば、それを元本償還に充てられることになります。
都心部の好立地築浅マンションなどでは時間の経過とともに値上がり傾向であることもあり、売却で元本償還ができるケースが多そうですが、地方部で立地もほどほど、といった物件の場合は、時間とともに価格が下がることも多く、月々の賃料で十分な利益が得られていることが必要ですね。
不動産が売れない場合にはどうなる?
不特法に基づく不動産クラウドファンディングでは
国土交通省が定める「モデル約款」をベースとして各社の契約ができており、ファンド運用終了に関する規定はどこもほとんど同じ(※)になっていますので、ここではモデル約款をベースとして、考え方をご紹介します。
※各サービスは不特法の許可取得時に、投資家と締結する約款についても審査を受けます。
モデル約款を独自に修正した約款で許可を取得すること自体は可能なのですが、各サービス事業者は許可申請時にモデル約款から変更する場合、変更点を明示した上で行政に審査されるため、投資家にとって不当に不利な条件で申請したとしても、審査時に行政から修正を求められることになります。(正当な理由があると行政が判断すれば認められるでしょうが)
(Case1)ファンド運用期間を期間を延長する
モデル約款では、運営事業者が契約期間満了前に売却が困難だと判断した場合、投資家に対して通知することで、契約期間を一方的に延期することが可能となっています。
運営事業者に有利な条件にも見えますが、不動産が売却(現金化)できなければそもそも元本の償還ができません。
裁判により競売にかけたとしても高値売却できる保証はありませんので、投資家にとっても、事業者が適正な販売活動を通じて、最も有利な条件で売却できるまでの期間待つことに一定の合理性があるでしょう。(もちろん期限内に無事償還されることがベターなのですが)
モデル約款:(契約期間)
第9条 本契約の契約期間は、 年 月 日から 年 月 日までとする。
2 前項にかかわらず、本契約の契約期間内に対象不動産全部の売却等が完了しない場合には、本事業者は、本契約の契約期間の満了日の○ヶ月前までに本出資者に書面又は電磁的方法により通知をすることにより、○年を超えない範囲で本契約の契約期間を延長することができる。
(Case2)売却完了前に契約が終了となってしまう
期間延長が間に合わない場合や、延長した期間でもなお不動産が売れなかった場合は、どうなるのでしょうか?
実は、契約期間が延長されなかった場合も、対象不動産が現金化されるまで清算が実施されません。
以下のモデル約款の記載をご覧いただくとわかりますが、対象不動産を換価処分した上で清算することになっています。
換価処分しないやり方としては、不動産を分割して投資家に譲渡する、といったやり方があるのかもしれませんが、投資家にとってはそれでは負担が大きくなるため、不動産を現金化した上で、現金清算がされるという手順は合理的な考え方でしょう。
結局のところ、対象不動産を処分して現金化するまで投資家は清算(配当や元本償還)を受けられないわけですので、対象不動産の流動性(市場で売買されやすいか)の重要性が感じられるのではないでしょうか。
(本契約の終了・本事業の清算)【施行令第6条第1項第6号、施行規則第11条第2項第6号イ及びロ】【法第25条第1項第6号】
第10条 本契約は、以下のいずれかの事由が生じた場合には終了する。かかる事由の発生により本契約が終了した場合、本事業者は、本出資者に直ちに通知するものとする。
(1) 第9条に定める本契約の契約期間の満了
(2) 対象不動産全部の売却等の完了
(3) 本事業の継続の不能
(4) 本事業者に係る破産手続開始の決定
(5) 出資総額が第2条第1項に定める出資予定総額に満たない場合であって、本事業者が第2条第3項に基づき自ら出資を行わないときその他のやむを得ない事由があるとき
2 前項の規定によって本契約が終了した場合、本事業者は、本事業において金銭以外の資産があればこれを換価処分した上、本事業に係る資産から本事業者報酬を含む本事業に係る一切の債務を弁済し、第8条第4項に従い、速やかに最終の計算期間に係る匿名組合損益及び本出資者に分配すべき匿名組合損益を確定し、本事業に属する金銭から清算手続に要する費用その他の残余財産から支払われるべき費用を控除した金額をもって、以下の順序で優先出資者及び本事業者に対して出資の価額の返還を行うものとする。
(Case3)運営事業者が対象不動産を買い取る
不動産が売れない場合には、運営事業者が対象不動産を買い取ることができます。
これには2つのやり方があり、
①運営事業者が現金で買い取る
ファンド規模に対して、自己資本やキャッシュフローが潤沢にある運営事業者であれば、対象不動産を事業者が買取、現金をファンドの分別口座に入れることで、投資家に対しての配当や元本償還が可能です。
不動産クラウドファンディング事業者の多くは、キャッシュフロー計算書などを開示していませんのでキャッシュ有無の把握は困難ですが、自己資本に対してファンドの資金調達規模が小さい事業者であれば、不動産の買取ができる可能性が出てきます。
当サイトでは自己資本比率とファンドでの資金調達規模に基づくスコアリングをしていますが、キャッシュフローが見えない中での安全性の目安の一つとして見ていただければと思います。
②不動産クラウドファンディングでリファイナンス(再組成)する
クラファン投資家から、再度資金調達するという方法もあります。
インカム型のように、当初から継続運用する予定で取得した不動産の場合は健全なリファイナンスという見方ができそうですが、開発型ファンドで当初売却予定時期に売り切れず、延長するタイプのリファイナンスファンドは、事業者の目論見収支よりも悪化している可能性がありますので、注意が必要でしょう。
また、
運営事業者の自己資本やキャッシュフローよりも大きい規模、かつ、リファイナンスを前提とするファンドでは、当該サービスでトラブルが起きたり、競合の参入で資金調達環境が悪化した場合には、リファイナンスに失敗するリスクが出てくる可能性があります。
その場合には、”(Case2)売却完了前に契約が終了となってしまう”という状態に陥ってしまうリスクがある点は注意が必要です。
ファンド運営事業者への買取価格について
ところで、ファンド運営事業者が不動産を買い取る場合の価格は、どうなっているのでしょうか?
基本的な考え方としては、ファンド運営事業者は、投資家の資産を預かり運用するプロとしての全管義務がありますので、できる限り高い価格、合理的な価格で対象不動産を売却する責任があります。
一方で、自社で対象不動産を買い取る場合に、高く買い取るほど自社は損をしますので、利益相反関係が成立する状態になります。
投資家としては、この買取価格の透明性を求めたいところなのですが・・・
実は、不動産クラウドファンディングでは、現状この点は運営事業者の言いなり、という状態(※)になってしまっています。
幸い現時点では、想定利回りを下回ると投資家からの評判悪化につながるためか、投資家からの資金調達時の「想定利回り」を満額配当しているケースが多い状態ですので問題は顕在化していませんが、将来にわたってこの状態が続く保証はありませんので、ファンドやサービスの中身をよく見て投資判断する必要があるでしょう。
※運営事業者のいいなり、について
REITなどでは、利益相反の可能性がある利害関係者との取引時は、事前承諾が必要であったり、プロの鑑定士による鑑定評価額での売買を求められるなど、ガバナンスルールが定められています。
ところが、不動産クラウドファンディングでは扱う不動産の規模が小さいことが前提にあり、高額な鑑定評価の取得がそもそも義務付けられていないのです。
そのため、利益相反関係のある運営事業者自らが価格を判断し、買い取ることを制度上許容されてしまっています。
以前、某ファンドの関係者が「本ファンドの売買価格は市場価格に対して余裕がある」といった趣旨のコメントをSNS上で発信していましたが、「本来の価格より安い価格で運営事業者が買い取っている」といった趣旨にも聞こえてしまいますので、これは本来堂々と言えることではないのでは?と管理人は感じました。
現在の不動産クラファンにおけるリファイナンス時の売買価格の不透明さという課題もありそうですので、今後、トラブルでもあれば、この運用ルールの改善が真っ先に議論されると管理人は個人的には感じています。
例えば、10億規模のファンドでは鑑定評価の取得を義務付けるなど、本来現時点で議論されても良いかもしれません。
CREALなど鑑定評価を取得、情報開示していますので、業界の改善の旗を振ってもらえるとうれしいのですが。