TECROWDのデータセンター事業で主要な協業先となっているUnsung Fields社において、2026年3月25日にNEWSが掲載されていました。
従来協業先とされていたUnsung Fields社の事業基盤を元に新たにai&社を立上げ、事業展開を行うようですので、そのNEWS内容を確認します。
新たなAI企業、ai&の始動
2026年3月25日に掲載されたNEWSによれば、新たにai&という会社を立上げ、Unsung Fields社の事業もそこに移管(事業譲渡?)されるようです。
ただ、シード資金5,000万ドル(約75億円)といった記載やインフラ構築資金約3,000億円超、といった数字が書かれていますが、純粋なエクイティ出資なのか、事業譲渡で移管される資産を含むのか、融資のコミットメントなのか、などがわからない記載です。
(5,000万ドルが全てエクイティならシード期としては大きく、相応の出資者がいるはずですから、もっと具体的に記載する方が良いと思うのですが。)
シード期のスタートアップの場合、事業の立上げや黒字化までに時間を要するため、今後継続的に出資者を集める必要がありますので、それを支えるリード投資家や資本参加している初期の出資企業がどこか、といったことも非常に重要になりますが、今回はその点も一切の記載がありませんでした。(経営陣がCo-Founder & CEOとなっており、一定の出資はしているはずですが。)
単純に比較するのは不適切かもしれませんが、例えば国内AIスタートアップの有名どころsakana AIは以下のようなプロセスとなっており、今後のスケジュールを想像する上で参考になるかと思います。
sakana AIは非常に順調なケースではありますが、シード出資の8か月後には国内有力事業会社や金融機関の参画が発表されていますので、ai&社の事業が順調なら、数か月~数年以内に、事業会社等からの新たな出資情報が出てくるかもしれませんので、注目していきたいと思います。
■シード期(2024/1/17):
株式会社NTTドコモ・ベンチャーズの「お知らせ」掲載内容
株式会社NTTドコモ・ベンチャーズが出資についてPR発表
■シリーズA(2024/9/17):
sakana aiのWebサイト掲載情報
海外のVCやNVIDIAに加えて、大手金融機関(MUFG、SMBC、MIZUHO、SBIグループ)、NEC、第一生命、伊藤忠、富士通、KDDI、ANA、東京海上日動、野村HDが出資
経営体制や販売状況は?
体制は大きく変更となり、Chief Customer Officer(最高顧客責任者)の肩書を持つ方が経営者に
Unsung Fields社立上げ時は、CEOの他に以下のような経歴を持つ大物っぽい方が参画しているとされていましたが、新会社では一切その方の名前が出てきておらず、大きく組織や事業内容が変化している可能性がありそうです。
・スリランカSLIIT私立大学副学長
・立命館アジア太平洋大学(APU) 教授&kDDIT研究センター長
今回の新会社の創業者兼経営者も立派な経歴で、Tenstorrentの「Chief Customer Officer(最高顧客責任者)」という役職を3年以上務めた方のようです。
テンストレントジャパン株式会社 プレスリリース
TECROWDはTenstorrent機器を大阪データセンターに導入している様子ですし、今後構築するOMEデータセンターシリーズでもTenstorrent機器を導入するとすれば、国内での大規模導入事例情報がWeb上で見当たらないTenstorrent社にとって、TECROWDの事業は非常に重要な位置づけになっているのかもしれません。
インフラ構築の次ステップとして、構築したデータセンターを用いた「サービスを、外部に販売していく会社」、という事業を担っていくのかもしれません。
販売実績には言及無し / 販売テコ入れで、これから販売を本格化する?
Unsung Fields社は
2025年4月18日時点でAIクラウドサービスの先行予約を受付開始しており、丸1年が経過しています。
また、
TECROWDの公開情報では大阪データセンターは全面稼働開始済、となっていますが、今回のリリースではまだ、導入事例や導入企業の記載はありません。
スタートアップ期のユーザ獲得はそれほど容易なものではないとはいえ、1年経過時点で導入実績が一切触れられないという状態からは、これまでの販売が必ずしも好調とは言えなかった可能性もあります。
今回、販売に強みのある経営者を招致し、体制を刷新・強化するための基盤ができたと見れば、ここからその実績・真価が問われる感じでしょうか。
不動産クラファン投資家にとって重要な:データセンターの売却シナリオは?
TECROWDの公開情報において、「今後、物件の販売活動に入りますが、データセンターの運営が開始されている中での販売活動とすることで、好条件での売却を狙います。」との記載が確認できます。
つまり、TECROWDが開発したデータセンターは、今回登場するai&社に売却するというシナリオではなく、外部の一般投資家等に売却していくことをめざすようです。
データセンターの実際の売買時の価格評価においては、「テナント信用力」を問われます。(95号の鑑定評価ではこのあたりは全く言及されていませんので注意が必要。)
TECROWDのデータセンターのエンドテナント企業がもしai&社だとすれば、TECROWDの投資家にとっては、この企業の事業が順調であることや、財務の安定が、開発するデータセンターの収益の安定性や、売却先選択肢と利益確保の上で非常に重要になります。
つまり、不動産クラファンが行う事業が、エンドテナント企業(ai&社?)の事業安定性影響を大きく受ける構造です。
ai&社はsakana AIのように基盤モデルの開発を行うような企業というより、インフラ基盤を提供するIaaS領域の事業に見えます。
TECROWDでは更に、大阪データセンターが全面開業しており、これを利用するユーザ基盤が確立される前段階ながら、更にOMEでは4号データセンターの構築にまで着手していることを考えれば、販売できるAIリソースが潤沢に確保できるという点は、顧客開拓における強みになるかもしれません。
一方で、この事業領域では巨額のインフラ投資をしているソフトバンク社やNTTデータ社等の他、政府クラウドに採用されたさくらインターネットなど、既に大手事業者が多数存在していますので、投資を検討する際には、この市場での競争対抗戦略や、販売成果などにも関心を持っておくことが望ましでしょう。
黒字化までを支える出資資金の獲得と、販売進捗の重要性
大阪DCでは既に年間4.8億円の賃料(マスターリース会社であるAMATUHI社の支払い賃料のため、エンドテナントが支払う賃料は不明)が発生しています。
今後更に販売人員体制を構築することや、OMEデータセンター開業後は更に運用コストが増えることも想定すれば、事業維持コストは更に大きく膨らむでしょう。
「シード期」とはそもそも、商品・サービスのアイデアはあるが形になっておらず、収益がなく赤字状態が続く時期ですのでやむを得ないことなのですが、赤字期間を支えてもらわなければ資金不足に陥る時期をさします。
そのため、出資者に対しては目標となる指標(KPI)を設定してその進捗を報告するとともに、将来の事業シナリオの蓋然性を高めることで、更なる出資金を求めていく必要があります。
この手の事業でいきなり黒字化というのは難しい一方で、「今回の事業モデルの核となるような事業の強み」を磨き上げて、事業モデルやコスト競争力を確立し、投資家にとって、将来性を期待させるような具体的な数字や成果は求められるでしょう。
今回得られた情報には、事業を支えるリード投資家や金融機関の情報はありませんでしたので、ai&社の事業継続性を外部から判断する上では、今後、いつ、いくらの増資が入るかや、その際の出資者の顔ぶれなどにも関心を持っておくことが望ましいでしょう。